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NO.222:牛の病気―頭部―(5) |
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2013年2月20日
5、感染性角結膜炎
原因
細菌による角結膜炎は夏から秋にかけモラクセラ(Moraxella bovis)という菌の感染で起こることが知られ、「伝染性角結膜炎(ピンクアイ)」とよばれる。感染は直接的な接触以外に、ハエによる媒介が知られる。
一方、ウイルスによる集団性の角結膜炎はウシヘルペスウイルス1型の感染によるIBR(ウシ伝染性鼻気管炎)という病気より冬から春先にかけて流行する。感染はウイルスが鼻汁、流涙、流涎などに含まれて広がり、一度感染したウシに潜伏しストレスなどにより再排泄される。
症状
初期には流涙、羞明(眩しさや痛みで目が開けられない)、眼脂(目やに)、ぼんやりとした角膜の白濁、著しい腫脹と充血を伴う結膜炎が見られる。
症状が進行もしくは発見が遅れた場合には、角膜はより明確に白色化する。
重症牛では角膜に潰瘍が形成され、血管新生と肉芽増生により眼球の赤色化いわゆるピンクアイの状態になる。
原因がIBRであった場合には罹患牛に上記角結膜炎症状と同時に、発熱、発咳、膿性鼻汁等の感冒症状が見られる。
農家さんができる処置
モラクセラに関しては、予防対策として特に夏場の牛舎のハエ駆除に務める。
IBRに関しては、年に一度のワクチン接種により抗体価を上昇させること、また細霧装置や動力噴霧器による牛舎消毒が有効となる。
発症牛は重要な感染源となるため隔離飼育が望ましい。
ただしIBRの生物学的特性を考えると発症後の隔離では遅いため、ワクチネーション、牛舎消毒といった予防に注力すべきである。
治療には抗生物質や抗炎症薬の使用が欠かせないため、獣医師に治療を依頼する。
獣医師より点眼薬の処方を受けた場合には、一日2回程度の点眼を行う。
獣医師の治療
多くの場合、多量の眼脂が眼球及び眼周囲に固着し衛生度を著しく低下させているため、丁寧に拭き取る。
その後生理食塩水などで眼洗浄を行う。
最後にモラクセラの感受性抗生物質(OTCなど)を、浸透圧を考慮し生理食塩水で薄めるなどして刺激を少なくして点眼する。
軽度の症状であれば点眼薬を農家さんに薬治し、一日2回程度点眼してもらう。
眼病変のみである場合には上記処置で収まるが、IBRによる角結膜炎であった場合には合わせて全身性に感冒、肺炎の治療を行う。NSAIDs、ステロイドの適切な使用は治癒を早める。
予後
モラクセラによる角膜潰瘍では失明、弱視化の可能性があるが、適切な処置の元では生産性の大きな損失は無く、繁殖用、肥育用として以後の飼育が可能。
一方、IBRの場合には肺炎へと進行する可能性があり、生命に関わることもある。回復後は以後の飼育が可能であるが、ストレス等による免疫能の低下に合わせ無症状に排菌する可能性がある。
写真1
著しい流涙と眼脂が見られる肥育牛
眼周囲の衛生度を高めるため丁寧にふき取ることが望ましい。
写真2
結膜、瞬膜の炎症性腫脹から、写真の様にチェリーアイ(瞬膜の突出)の様相を呈する症例。
集団飼育では発見時にこのような状態であることも珍しくない。
写真3
多量の眼脂を認める症例。強い感染と炎症が疑われる。
写真4
角膜の白濁、強膜の赤色化を呈する症例。
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